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「異常は見られません」 精密検査と精神鑑定を終え戻ってきたスザクの検査結果はそれだけだった。 その結果を見てセシルは顔を赤くした。 恥じらいではなく、怒りで紅潮しているのだ。 「なにもないなんて、もしかして名誉だからちゃんと検査していないかもしれないわ。わたし、抗議してきます」 あの状態はどうかんがえて異常だった。 それなのに、こんな結果はあり得ない。 憤慨するセシルを止めたのは、ロイド。 「セシルくん、これは喜ぶべき結果じゃないのかなぁ?だってもし異常あったら、彼、デバイサーには不適格だから、特派から外されちゃうよ?下手をしたら除隊だよね。ランスロットに関する機密をしりすぎてる彼が一般人に戻れると思うの?」 言外に、特派から外されるということは、もう二度と日の目を見られないということだと告げると、その可能性を考えてなかったセシルはかお青ざめさせた。 ブリタニア人の多くはイレブンを人間だと思っていない。簡単に、彼は消されてしまうのだ。セシルとロイドが動いたところでそれは変わらない。 「だからね、ここは度重なる起動実験と耐久テストによる極度の疲労のため、一時的に錯乱状態に陥ったってことにして、極限状態でもこちらが望む成果を出したって流れで資料作る方がいいと思うんだけどね」 ランスロットを使用したデータの改竄は難しいが、それ以外のデータはいくらでも偽造できる。そういう無茶なテストを行ったという記録を用意するのが、現状維持するための最善手。スザクを守る手であると同時に、優秀な人材を失わずにすむ手だ。 「ですがそれでは····」 「おかしくなっても、結果さえ出してくれれば僕は構わないんだけど」 「ロイドさん、人としての最低限の思いやりを教えてあげましょうか?」 スザクの人格に興味はないと言いたげなロイドに、セシルはニッコリと微笑みながらいった。目は笑っていないし、その手は固く拳が握られ、いつでも殴れる体制だ。これは不味いとロイドは反省はしていないが、条件反射で謝った。 「こ、今後のテストに支障が出ても困るから、精神科には通わせるし、ストレスが原因かもしれないから、学園に行けるよう時間調整するべきじゃないかなぁ!?」 頭を庇い、声を裏返しなが提示された案に、セシルは飛び付いた。 「それですロイドさん!スザクくんのお友達もいるそうですから、毎日学園に行けるようスケジュール調整をします。データの方も任せてください」 普段だって、朝から晩まで実験しているわけではない。実験結果から必要なデータを集計し、次に行う実験の準備をする。新しい機体の設計やプログラム関係を、彼が学園に行っている間に行い、帰ってきてから彼が関わる作業をすればいい。 あの人間に興味のないロイドがこんな提案をしてくれるなんて。 態度ではわからなかったが、彼なりにスザクの事を考えていたのだ。 二人のために、調整と資料の作成を頑張らなければ。 嬉しそうに笑うセシルに、とりあえず一件落着かなぁ?ホント人間て壊れやすくて困るなぁと、ロイドはめんどくさそうにため息をついた。 皇歴2017年 何度見ても新聞にはそうかかれていた。 新聞の内容に関しては、正直記憶にない。 あの当時の自分は、新聞を読む事は殆どなかったから。政治にしても、ちょっとした事件事故にしても、特に気にせず過ごしていた。テロなど、軍務に関わるようなことは、ニュースで知るよりも早く知る立場だったのもある。いや、あのときは、必要な情報しかセシルたちも口にはしなかったから、本当に自分が関わりそうなことだけしか知らずにいた。それが許される場所だった。 だから、情報を記憶と照らし合わせることは無意味でしかない。他の情報源をと、テレビを見ても、ラジオを聞いても、ネットワークに接続し調べても、出てくる年号は2017年まで。 それはまだ、ブラックリベリオンさえ起きていない日付だった。 |